オペレーションズリサーチ 第 1 回¶

数理モデルを読むための記法¶

日本大学生産工学部 オペレーションズリサーチ(柿本・大前)


0. この資料の使い方¶

オペレーションズリサーチでは、現実の問題を 数理モデル(数式で書いた問題)に直してから解きます。この授業では第 3 回以降、次のような式が毎回出てきます。

$$ \begin{aligned} & \sum_{j \in J} c_j x_j \rightarrow \max,\\ \text{s.t.} \quad & \sum_{j \in J} a_{ij} x_j \le b_i, \quad \forall i \in I \\ & x_j \ge 0, \quad \forall j \in J \end{aligned} $$

この式に使われている記号($\in$、$\sum$、$\forall$、添字 $i$, $j$、$\max$、s.t.)は、どれも高校までに見たことがあるか、見たことがなくても仕組みは簡単なものです。ただし 読み方の約束 を知らないと、式全体が意味不明な記号の列に見えます。

この資料は、その約束をまとめたものです。目的は次の 1 点です。

上の形の式を見たとき、「何を決める問題で、何を最大にし、どんな条件が何本あるか」を日本語で言えるようになる。

今回は上記モデルで使われている記法について解説します。なお、今回解説する記法は数学一般でも用いられるものです。最適化問題特有の記法($\rightarrow \max$、s.t.)は第 3 回で解説します。

章立て¶

章 内容 覚える記号
1 集合 $\{\,\}$、$\in$、$\lvert I \rvert$、$\mathbb{R}$、$\mathbb{Z}$、$\{0,1\}$
2 添字 $x_i$、$a_{ij}$、$I = \{1, \dots, n\}$
3 和の記号 $\sum$
4 「すべての」 $\forall$
5 記法早見表
6 演習

1. 集合¶

1.1 集合とは¶

集合 は「ものの集まり」です。集まりに入っている個々のものを 要素 と呼びます。オペレーションズリサーチでは、集合は「登場するモノの一覧」として使うことが多いです。

問題の例 集合として書くもの
3 種類の製品を作る 製品の集合 $\{\text{製品1}, \text{製品2}, \text{製品3}\}$
5 つの倉庫から配送する 倉庫の集合 $\{\text{倉庫1}, \text{倉庫2}, \text{倉庫3}, \text{倉庫4}, \text{倉庫5}\}$
東京・大阪・名古屋を結ぶ路線 都市の集合 $\{\text{東京}, \text{大阪}, \text{名古屋}\}$

上記表ではわかりやすさのため「製品1」や「倉庫1」、「東京」などの名称を要素として用いていますが、本授業において、それぞれの要素に番号を振って単に以下のように書くことにします。
(コンピュータ上で扱う場合にも以下のように番号を振って扱います)

問題の例 集合として書くもの
3 種類の製品を作る 製品の集合 $\{1, 2, 3\}$
5 つの倉庫から配送する 倉庫の集合 $\{1, 2, 3, 4, 5\}$
東京・大阪・名古屋を結ぶ路線 都市の集合 $\{1, 2, 3\}$

1.2 書き方(1)要素を並べる¶

要素を波かっこ $\{\,\}$ の中にコンマで区切って並べます。

$$ I = \{1, 2, 3\} $$

  • 読み方: 「$I$ は 1、2、3 からなる集合」
  • 集合には $I$、$J$、$S$ のような 大文字 の名前を付けるのが慣例です。

順序は関係ありません。$\{1, 2, 3\}$ と $\{3, 1, 2\}$ は同じ集合です。また同じ要素を 2 回書いても 1 つと数えます。

1.3 書き方(2)条件で指定する¶

要素が多いとき、または規則で決まるときは、縦棒 $\mid$ の右側に条件を書きます。

$$ I = \{\, i \mid i \text{ は } 1 \text{ 以上 } 100 \text{ 以下の整数} \,\} $$

  • 読み方: 「$I$ は、$i$ が 1 以上 100 以下の整数であるような $i$ の集合」
  • 縦棒は「ただし」「〜であるような」と読みます。縦棒の代わりにコロン $:$ を使う本もあります。

規則が明らかなときは、省略記号 $\dots$ で書くこともよくあります。

$$ I = \{1, 2, \dots, 100\} $$

末尾の数字を $n$ としたとき、この授業では、この $\{1, 2, \dots, n\}$ の形が最もよく出てきます。

1.4 要素である: $\in$¶

$i$ が集合 $I$ の要素であることを

$$ i \in I $$

と書きます。

  • 読み方: 「$i$ は $I$ の要素」「$i$ は $I$ に属する」「$i$ は $I$ に入っている」
  • 例: $I = \{1, 2, 3\}$ のとき、$2 \in I$ は正しく、$5 \in I$ は正しくありません。正しくないことを $5 \notin I$ と書きます。

$i \in I$ という書き方は、この先の $\sum_{i \in I}$ や $\forall i \in I$ の中に部品として現れます。「$i$ を $I$ の中から取ってくる」という感覚で読んでください。

1.5 要素の個数: $\lvert I \rvert$¶

集合 $I$ の要素の個数を $\lvert I \rvert$ と書きます。

  • 読み方: 「$I$ の要素数」「$I$ のサイズ」
  • 例: $I = \{1, 2, 3\}$ なら $\lvert I \rvert = 3$。$I = \{1, 2, \dots, n\}$ なら $\lvert I \rvert = n$。

絶対値と同じ記号ですが、中身が集合なら個数の意味です。

1.6 数の集合: $\mathbb{R}$、$\mathbb{Z}$、$\{0, 1\}$¶

よく使う数の集合には決まった名前があります。

記号 読み方 意味 例
$\mathbb{R}$ 実数全体 小数を含むすべての数 $-1.5$、$0$、$\sqrt{2}$、$3$
$\mathbb{R}_+$ 非負の実数全体 $0$ 以上の実数 $0$、$0.5$、$3$
$\mathbb{Z}$ 整数全体 小数を含まない数 $-2$、$0$、$7$
$\mathbb{Z}_+$ 非負の整数全体 $0$ 以上の整数 $0$、$1$、$2$
$\{0, 1\}$ バイナリ $0$ と $1$ だけ $0$、$1$

1.7 変数の「型」を集合で宣言する¶

この授業で集合が最も大事になるのは、変数がどんな値をとれるか を書くときです。

書き方 読み方 意味
$x \in \mathbb{R}_+$ $x$ は非負の実数 $x$ は $0$ 以上の小数でもよい(連続変数)
$x \in \mathbb{Z}_+$ $x$ は非負の整数 $x$ は $0, 1, 2, \dots$ のどれか(整数変数)
$x \in \{0, 1\}$ $x$ は $0$ か $1$ $x$ は「する/しない」を表す(0-1 変数)

たとえば「製品を何個作るか」は $x \in \mathbb{Z}_+$、「液体を何リットル作るか」は $x \in \mathbb{R}_+$、「この倉庫を使うかどうか」は $x \in \{0, 1\}$ と宣言します。

同じ意味を、不等式で書くこともあります。

$$ x \in \mathbb{R}_+ \quad \Longleftrightarrow \quad x \ge 0 $$

$$ x \in \{0, 1\} \quad \Longleftrightarrow \quad x = 0 \text{ または } x = 1 $$

1.8 よくある誤読¶

  • $\{1, 2, 3\}$ の波かっこを「順番のある並び」と読む → 集合に順番はありません。順番が必要なときは別の記法(ベクトルや列)を使います。
  • $\lvert I \rvert$ を絶対値と読む → 中身が集合なら要素数です。
  • $x \in \{0, 1\}$ を「$x$ は $0$ 以上 $1$ 以下」と読む → $x$ が取るのは、$0$ と $1$ の 2 通りだけ です。$0$ 以上 $1$ 以下なら $0 \le x \le 1$ または $x \in [0, 1]$(角かっこ)と書きます。

2. 添字¶

2.1 なぜ添字が必要か¶

記号を割り当てたいものが 2〜3 個なら $x$、$y$、$z$ で足ります。 しかし製品が 10 種類あれば、対応する記号も 10 個必要になります。 この場合、$x$、$y$、$z$ のような命名規則では、記号が足りない上に「$y$ は何番目の製品だったか」が分からなくなります。

そこで、1 つの記号に番号を付けて 区別します。

$$ x_1, \ x_2, \ x_3, \ \dots, \ x_{10} $$

右下に付いた小さな番号を 添字(そえじ)と呼びます。 また、番号に具体的な数字ではなく $i$ などの記号を使って $x_i$ などと書くこともあります。 この $i$ は具体的な番号を抽象化させているだけです。

2.2 添字集合¶

添字の動く範囲をあらかじめ集合として決めておき、その集合の名前で記号をまとめて書きます。

$$ \begin{aligned} &x_i, \quad i \in I \\ &I = \{1, 2, \dots, n\} \end{aligned} $$

  • 読み方: 「$I$ を $1$ から $n$ までの集合とし、各 $i \in I$ について変数 $x_i$ を考える」
  • $I$ を 添字集合 と呼びます。コンマの後の $i \in I$ は「$i$ は $I$ のどれでもよい」という意味で、$x_1, x_2, \dots, x_n$ をまとめて指しています。

第 1 章の「集合はモノの一覧」と合わせると、次の対応になります。添字の文字は何でも構いませんが、この授業では製品の番号を $j$、原料の番号を $i$ で表します(理由は §2.4)。

現実 数式
製品が $n$ 種類ある 添字集合 $J = \{1, \dots, n\}$
製品 $j$ の生産量 変数 $x_j$
製品 $j$ の 1 個あたり利益 定数 $c_j$

変数と定数の区別: 慣例として、決めたい量(変数)は $x$、$y$、$z$ のようなアルファベット後半の文字、問題で与えられる量(定数)は $a$、$b$、$c$ のような前半の文字を使います。どちらにも添字が付きます。

2.3 添字と表の対応¶

添字付きの定数は、表 として与えられることがあります。

例: 製品 $j \in J = \{1, 2, 3\}$ の利益 $c_j$(円/個)

$j$ 1 2 3
$c_j$ 300 500 200

この表と $c_1 = 300$、$c_2 = 500$、$c_3 = 200$ は同じ情報です。

2.4 添字が 2 つ: $a_{ij}$¶

「製品 $j$ を 1 個作るのに原料 $i$ が何 kg いるか」のように、2 つのモノの組 で決まる量には添字を 2 つ付けます。

$$ a_{ij}, \quad i \in I,\ j \in J $$

2 つ以上の添字が付く場合、その順番には意味があります。$a_{ij}$ と $a_{ji}$ は別の値です。 以下の表のように考えるとわかりやすいです。

例: 原料 $i \in \{1, 2\}$、製品 $j \in \{1, 2, 3\}$ のとき

製品 $j=1$ 製品 $j=2$ 製品 $j=3$
原料 $i=1$ $a_{11} = 2$ $a_{12} = 1$ $a_{13} = 4$
原料 $i=2$ $a_{21} = 1$ $a_{22} = 3$ $a_{23} = 0$

$a_{ij}$ は表の $i$ 行 $j$ 列の値です。$a_{23} = 0$ は「製品 3 に原料 2 は使わない」という意味です。

この授業では、制約に対応するもの(原料)を行 $i$、変数に対応するもの(製品)を列 $j$ にとります。行列の「$i$ 行 $j$ 列」と同じ並びで、多くの教科書もこの書き方です。ただし、どちらが行でどちらが列かは問題ごとに定義されるので、必ず定義を確認してください。

2.5 添字を「動かす」と「固定する」¶

添字付きの式を読むときに最も大事な区別です。

  • $c_i x_i$ で $i$ を 固定 すると、たとえば $i = 2$ なら $c_2 x_2 = 500 x_2$ という 1 つの項になります。
  • $i$ を 動かす と、$c_1 x_1$、$c_2 x_2$、$c_3 x_3$ という $\lvert I \rvert$ 個の項が生まれます。

第 3 章の $\sum$ は「添字を動かして足す」、第 4 章の $\forall$ は「添字を動かして式を並べる」記号です。どちらも「何を動かし、何を固定しているか」を意識すると読めます。

2.6 添字の文字の慣例¶

文字 よく使う対象
$i$、$j$、$k$ 一般の番号(製品、原料、倉庫など)
$t$ 時刻、期
$s$ 状態、シナリオ
$u$、$v$ グラフの頂点
$e$ グラフの辺

あくまで慣例です。定義が書いてあればそちらが優先です。

2.7 よくある誤読¶

  • $x_i$ を「$x$ 掛ける $i$」と読む → 添字は掛け算ではありません。$x_i$ は 1 つの変数の名前です。
  • $a_{ij}$ の $ij$ を「$i \times j$」と読む → 2 つの添字が並んでいるだけです。誤解を避けるため $a_{i,j}$ とコンマを入れて書くこともあります。
  • $x_i, \ i \in I$ を「変数が 1 個」と読む → $\lvert I \rvert$ 個の変数をまとめて書いています。

3. 和の記号 $\sum$¶

3.1 定義¶

$\sum$(シグマ)は「添字を動かしながら足す」記号です。

$$ \sum_{i=1}^{n} c_i x_i = c_1 x_1 + c_2 x_2 + \cdots + c_n x_n $$

$\sum$ の 下 に「動かす添字とその始まり」($i = 1$)、上 に「終わり」($n$)、右 に「足す項」($c_i x_i$)を書きます。

$\sum$ の右の項の中で、動かす添字(ここでは $i$)が付いている部分が毎回変わり、付いていない部分はそのまま残ります。 例えば定数 $c$ に添字がなければ

$$ \sum_{i=1}^{n} c x_i = c x_1 + c x_2 + \cdots + c x_n $$

となります。

3.2 展開の手順¶

$\sum$ を見たら、次の手順で書き下してください。

  1. 動かす添字が何か、どこからどこまで動くかを確認する
  2. 添字に最初の値を入れて 1 項書く
  3. 添字を 1 増やして次の項を書き、$+$ でつなぐ
  4. 最後の値まで繰り返す

例: $\displaystyle\sum_{i=1}^{3} c_i x_i$ を展開します。

手順 1 動かす添字は $i$、$1$ から $3$ まで

$$\sum_{i=1}^{3} c_i x_i$$

手順 2 $i = 1$ を入れる

$$c_1 x_1$$

手順 3 $i = 2$ を入れて足す

$$c_1 x_1 + c_2 x_2$$

手順 4 $i = 3$ を入れて足す(終わり)

$$c_1 x_1 + c_2 x_2 + c_3 x_3$$

数値が与えられていれば、そのまま計算できます。$c_1 = 300$、$c_2 = 500$、$c_3 = 200$ なら

$$ \sum_{i=1}^{3} c_i x_i = 300 x_1 + 500 x_2 + 200 x_3 $$

です。

3.3 添字集合で書く: $\sum_{i \in I}$¶

「$1$ から $n$ まで」の代わりに、第 1 章の添字集合を使って

$$ \sum_{i \in I} c_i x_i $$

と書きます。

  • 読み方: 「$I$ に属する $i$ についての $c_i x_i$ の和」
  • $I = \{1, 2, \dots, n\}$ なら $\sum_{i=1}^{n}$ と同じ意味です。

こちらの方が便利な理由は 2 つあります。

  • 添字が $1$ から始まらなくてもよい。$I = \{2, 5, 7\}$ なら $\sum_{i \in I} c_i x_i = c_2 x_2 + c_5 x_5 + c_7 x_7$
  • 添字集合を見れば「何についての和か」が一目で分かる

この授業の資料では、以後 $\sum_{i \in I}$ の形を主に使います。

3.4 $\sum$ の右に何が入るか¶

$\sum$ の右には「動かす添字を含む式」なら何でも入ります。

式 展開(和をとる添字集合は $\{1, 2, 3\}$)
$\sum_{i \in I} x_i$ $x_1 + x_2 + x_3$
$\sum_{i \in I} c_i$ $c_1 + c_2 + c_3$(定数だけの和。1 つの数になる)
$\sum_{i \in I} 2 x_i$ $2 x_1 + 2 x_2 + 2 x_3$
$\sum_{j \in J} a_{ij} x_j$ $a_{i1} x_1 + a_{i2} x_2 + a_{i3} x_3$($i$ は動かさない)

最後の行に注意してください。$a_{ij}$ には添字が 2 つありますが、$\sum$ の下にあるのは $j$ だけです。したがって $j$ だけを動かし、$i$ は固定 します。展開後の式には $i$ が残ります。これが第 2.5 節の「動かす/固定する」です。

3.5 定数は外に出せる¶

動かす添字を含まない定数は、$\sum$ の外に出せます(分配法則)。

$$ \sum_{i \in I} 2 x_i = 2 \sum_{i \in I} x_i $$

これは展開してみるとわかりやすいです。
($I = \{1, 2, \dots, n\}$ としています)

$$ \sum_{i \in I} 2 x_i = 2 \sum_{i \in I} x_i = 2(x_1 + x_2 + \cdots + x_n) $$

逆に、添字を含むものは外に出せません。

$$ \sum_{i \in I} c_i x_i \ne c_i \sum_{i \in I} x_i \quad \text{(右辺は意味をなさない)} $$

右辺の $c_i$ は「どの $i$ か」が決まっておらず、式として成立していません。

3.6 二重和: $\sum_i \sum_j$¶

添字が 2 つある量を、両方の添字について足すときは $\sum$ を 2 つ重ねます。

$$ \sum_{i \in I} \sum_{j \in J} a_{ij} x_{ij} $$

  • 読み方: 「$I$ の $i$ と $J$ の $j$ についての $a_{ij} x_{ij}$ の和」
  • 展開は 内側(右側)の $\sum$ から 行います。まず $i$ を固定して $j$ を動かし、次に $i$ を動かします。

例: $I = \{1, 2\}$、$J = \{1, 2\}$ のとき

手順 1 外側の $i$ を固定し、内側の $\sum_{j \in J}$ を展開する

$$\sum_{i \in I} \left( a_{i1} x_{i1} + a_{i2} x_{i2} \right)$$

手順 2 $i = 1$ と $i = 2$ を入れて足す

$$\left( a_{11} x_{11} + a_{12} x_{12} \right) + \left( a_{21} x_{21} + a_{22} x_{22} \right)$$

項の数は $\lvert I \rvert \times \lvert J \rvert = 4$ 個です。有限の和では $\sum_i \sum_j$ と $\sum_j \sum_i$ は同じ値になるので、順序を気にする必要はありません。$\sum_{i \in I,\, j \in J}$ と 1 つにまとめて書くこともあります。

3.7 よくある誤読¶

  • $\sum_{i \in I} c_i x_i$ を「$c_i x_i$ という 1 項」と読む → $\lvert I \rvert$ 個の項の和です。
  • $\sum_{j \in J} a_{ij} x_j$ で $i$ まで動かしてしまう → 動かすのは $\sum$ の下に書かれた添字だけです。
  • 展開後の式に、動かした添字($i$)が残っている → 展開が終わったら動かした添字は消えます。残っていたら書き間違いです。

4. 「すべての」$\forall$¶

4.1 定義¶

$\forall$ は「すべての」「任意の」を表す記号です(All の A を上下反転したもの)。

$$ x_i \ge 0, \quad \forall i \in I $$

  • 読み方: 「すべての $i \in I$ について $x_i \ge 0$」「$I$ に属するどの $i$ についても $x_i$ は $0$ 以上」
  • 本授業では式の後ろにコンマで区切って $x_i \ge 0, \ \forall i \in I$ と書きます。かっこで囲んで $(\forall i \in I)$ と書く本や、前に $\forall i \in I:\ x_i \ge 0$ と書く流儀もありますが、意味は同じです。

4.2 「式の束」として読む¶

$\forall$ の役割は、同じ形の式を $\lvert I \rvert$ 本まとめて書く ことです。$\sum$ が「添字を動かして足す」なら、$\forall$ は「添字を動かして式を並べる」記号です。

例: $I = \{1, 2, 3\}$ のとき

$$ x_i \ge 0, \quad \forall i \in I $$

は、次の 3 本の不等式をまとめたものです。

$$ x_1 \ge 0, \qquad x_2 \ge 0, \qquad x_3 \ge 0 $$

4.3 $\sum$ と $\forall$ が両方ある式¶

制約条件では、$\sum$ と $\forall$ が同時に現れるのが普通です。

$$ \sum_{j \in J} a_{ij} x_j \le b_i, \quad \forall i \in I $$

読む順序は次のとおりです。

  1. まず $\forall i \in I$ を見て、「これは $i$ ごとに 1 本、合計 $\lvert I \rvert$ 本の不等式」と把握する
  2. 次に $i$ を 1 つ固定して、$\sum_{j \in J}$ を展開する

例: $I = \{1, 2\}$、$J = \{1, 2, 3\}$ に対する次の式を展開します。

$$ \sum_{j \in J} a_{ij} x_j \le b_i, \quad \forall i \in I $$

手順 1 $\forall i \in I$ を書き下す($i = 1$ と $i = 2$ の 2 本)

$$ \begin{aligned} \sum_{j \in J} a_{1j} x_j &\le b_1 \\ \sum_{j \in J} a_{2j} x_j &\le b_2 \end{aligned} $$

手順 2 各行の $\sum_{j \in J}$ を展開する

$$ \begin{aligned} a_{11} x_1 + a_{12} x_2 + a_{13} x_3 &\le b_1 \\ a_{21} x_1 + a_{22} x_2 + a_{23} x_3 &\le b_2 \end{aligned} $$

手順 3 数値を入れる(例として、第 2.4 節の表と $b_1 = 10$、$b_2 = 8$ を使う)

$$ \begin{aligned} 2 x_1 + 1 x_2 + 4 x_3 &\le 10 \\ 1 x_1 + 3 x_2 + 0 x_3 &\le 8 \end{aligned} $$

1 行の式が、実際には「不等式 2 本、それぞれ 3 項」に展開されました。$\forall$ の添字が 行 を、$\sum$ の添字が 列 を動かしている、と表で捉えると分かりやすくなります。

4.4 何本の式か数える¶

$\forall$ の後ろの集合の要素数が、式の本数です。

書き方 本数
$x_i \ge 0, \quad \forall i \in I$ $\lvert I \rvert$ 本
$\sum_{j \in J} a_{ij} x_j \le b_i, \quad \forall i \in I$ $\lvert I \rvert$ 本
$x_{ij} \le u_{ij}, \quad \forall i \in I,\ \forall j \in J$ $\lvert I \rvert \times \lvert J \rvert$ 本

4.5 $\exists$(参考)¶

$\forall$ と対になる記号に $\exists$「ある〜が存在する」があります。この授業の定式化では使いません。見かけたら「少なくとも 1 つは」と読んでください。

4.6 よくある誤読¶

  • $\forall i \in I$ を読み飛ばして「不等式は 1 本」と思う → $\lvert I \rvert$ 本です。
  • $\forall$ の添字を $\sum$ で足してしまう → $\forall$ は足しません。式を 並べる だけです。
  • $\sum_{j \in J} a_{ij} x_j \le b_i, \ \forall i \in I$ で $i$ と $j$ の役割を取り違える → $\sum$ の下の添字($j$)は展開すると消え、$\forall$ の添字($i$)は各行に残ります。

5. 記法早見表¶

第 3 回以降、式が読めなくなったらこの表に戻ってください。

記号 読み方 意味 節
$\{1, 2, 3\}$ 1、2、3 からなる集合 要素を並べた集合 1.2
$\{\, i \mid \text{条件} \,\}$ 条件を満たす $i$ の集合 条件で指定した集合 1.3
$\{1, \dots, n\}$ 1 から $n$ までの集合 省略記号 1.3
$i \in I$ $i$ は $I$ の要素 1.4
$\lvert I \rvert$ $I$ の要素数 1.5
$\mathbb{R}$、$\mathbb{R}_+$ 実数全体、非負実数全体 1.6
$\mathbb{Z}$、$\mathbb{Z}_+$ 整数全体、非負整数全体 1.6
$\{0, 1\}$ 0 か 1 0-1 変数の型 1.6
$x \in \mathbb{R}_+$ $x$ は非負実数 変数の型宣言($x \ge 0$ と同じ) 1.7
$x_i$ $i$ 番目の $x$ 添字 $i$ で区別した変数 2.1
$x_i, \ i \in I$ 各 $i \in I$ について $x_i$ $\lvert I \rvert$ 個の変数をまとめて指す 2.2
$a_{ij}$ $i$ と $j$ の組で決まる $a$ 添字 2 つの定数。順序に意味あり 2.4
$\sum_{i=1}^{n} c_i x_i$ $i$ が 1 から $n$ までの和 $c_1 x_1 + \cdots + c_n x_n$ 3.1
$\sum_{i \in I} c_i x_i$ $I$ の $i$ についての和 同上(添字集合で指定) 3.3
$\sum_{i \in I} \sum_{j \in J}$ 二重和 $\lvert I \rvert \times \lvert J \rvert$ 項の和。内側から展開 3.6
$\forall i \in I$ すべての $i \in I$ について 同じ形の式を $\lvert I \rvert$ 本並べる 4.1

6. 演習¶

この回は課題ではなく、今後の回で必要になる知識の 確認クイズ です(全 10 問、別紙 01_drill)。答えはすべて数値・○×・選択肢で、Canvas の小テストに回答してください。途中の計算は採点しませんが、必ず自分で展開して確かめてください。